社長と社長秘書のSWEET・・・かもしれない朝


 ふかふかのベッドは、最高に寝心地がいい。
 ぬくぬくと毛布にくるまりながら、ユウリは安心して気持ちよく寝息をたてていた。
 朝の日差しは暖かで、なんの不安もなく、日々楽しく順調に過ごしていることを象徴するように、部屋の中を爽やかに照らし出している。
 とても気持ちのいい朝だ。
「・・・・・そう・・・気持ちいい・・・・・・・・朝っ!?」
 夢うつつにとろとろと考えていたユウリは、次の瞬間、勢いよく飛び起きた。
「朝っ!? 何時・・・うわっ遅刻・・・っ」
 枕元の時計を見たユウリは、焦ってベッドから飛び出し、既に使い慣れた洗面に駆け込んだ。


  ぱたぱたと早足で広いダイニングに入ったユウリは、自分の見た時計が一時間くらい狂っていたのかと錯覚した。
「おはよう、ユウリ。よく眠れたようだね」
 高雅なフランス貴族の末裔は、コーヒーを飲みながら清々しく微笑んだ。
「・・・・おはよう、シモン」
 挨拶を返しながら、これも既に慣れた「自分の席」についたユウリの前に、さりげなく朝食の準備がなされるのを、軽く複雑そうに眺めた後、自分の勤める会社の最高経営責任者の神々しいまでに整った顔を見上げた。
「えーと・・・今、9時過ぎてるよね? ・・・・僕が時間を見間違えたわけじゃないよね?」
「そうだね。正確には、今、9時47分だよ」
 白を基調としたダイニングのボードの上に置かれた時計を確認して、シモンは優雅に首肯した。
「・・・・・完璧に遅刻だよ。起こしてくれればよかったのに・・・」
 情けなく眉尻を下げた黒絹の髪の専属秘書に、社長は肩を竦めて応じた。
「一時間や二時間、僕がいなくても、業務が滞ることはないよ。それより、君が寝不足になる方が問題だからね」
「・・・・・・・・・・・」
 ユウリが反論の言葉を飲み込んだのは、シモンが、自分をとても大切に想ってくれていること自体は自覚しているからだ。
「それに、そもそもユウリが寝坊したのは、昨日僕が無理をさせたからだし・・・・」
「それとこれとは話は別だから」
 平然としたシモンに比べて、ユウリは少々俯きがちだ。
「とにかく、これ以上遅刻したくないというなら、ちゃんと朝食を食べて欲しいな」
「・・・・・・・・わかった。ごめんね、すぐ食べるよ」
 いろいろ問題は脇において、ユウリは急いでカトラリーを手に取った。
「ゆっくりでいいよ、急いで食べるのは身体に悪いからね」
 宥めるようなシモンの言葉を聞きながらも、ユウリはなるべく早めに食べ終わるべくナイフとフォークを動かして、専属シェフの自慢の朝食を食べ始めたのだった。
 社長は、秘書に甘すぎるかもしれない、と、今更のように考えながら・・・。






言い訳
  えーと、5月3日発行の「セント・ラファエロ・カンパニーへようこそ!」の直前の話です。
  いや、まあ、全然すうぃーとじゃないですね。
  しかも、昨夜何があったかは、読んだ方のご想像にお任せしちゃいます。ええ、何か素敵なことがあったかもしれないし、お仕事かもしれません。この家にも、泊まっただけかもしれないし、同棲してるのかもしれません。うふふふふ・・・。
  いやまあ、だから、かるーい気持ちで読んでくださいませ・・。






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