クリスマス・ルール

 晩餐の用意された食堂のドアをくぐった途端。
「ユウリ」
 隣に立つ親友に呼ばれて振り返ったユウリは、漆黒の瞳を瞠った。
「メリークリスマス」
「え? ん・・・っ?」
 口唇の端に、柔らかな感触。
 すぐに離れたとはいえ、いきなりのキスに、ユウリは一歩後ろに下がって自分の口唇を覆った。
「シモン!?」
「あーっ!」
「お兄様っずるいわっ」
「私達もユウリにキスしなくてはっ」
「そうよ、そうだわ。ルールですものねっ。ユウリ、屈んでくださるっ!?」
 ユウリの驚きの声を掻き消すように、ベルジュ家の双子が口々に言い合いながら走り寄ってきた。
「え、ええっ!?」
「駄目だよ。ユウリの立ってる場所を見てご覧」
 扉の上のクリスマスリースを指差して、愛らしい妹達の要求をあっさり退けた白金の髪の貴公子は、もう一度親友を食堂に誘うために振り返った。
 その直前。
「おっと、いただき。ユウリ、メリークリスマス!」
「・・・ぇっ?」
 ほんの少し背を押されて一歩だけ踏み出すと、後ろから来たアンリが横からひょいと顔を出し、掠めるようにキスをした。
「っユウリ!」
 いささか急いたような声と共に、シモンに腕を引かれ、肩を抱き寄せられる。
「アンリ・・・・・・」
「ルールだよ」
 咎めるような兄の視線に、アンリは楽しげに笑ってテーブルに向かった。
「・・・まったく。さあ、マリエンヌもシャルロットも、テーブルについて」
 溜息を一つ落として、ユウリの肩を抱いたまま、シモンは強引に事態を収拾した。
「・・・・・・ルール?」
「・・・・・・・・・後でね」
 ユウリの疑問に、シモンは綺麗に片目を閉じて流した。

 和やかなクリスマスの晩餐に招かれたユウリは、楽しい時間を過ごし、食後の団欒も解散になった後、シモンと共に宛がわれた客室に戻ってきた。
「・・・そういえば、シモン・・・、・・・え、何?」
 部屋に入ってふと、食事の前の疑問を解消しようと問いかけたユウリの頭の上に、いきなり何かが乗せられ、シモンが腕を掴んでそっと引き寄せた。
「・・・・・ん・・・」
 しっとりと、重なる口唇。
 二度目でも三度目でも、驚きは変わらない。漆黒の瞳が見開かれる。
「・・・シモン?」
 ゆっくりと離れていった温かな口唇を思わず視線で追いながら、ユウリは小首を傾げた。
「クリスマスのルールだよ」
 ユウリの頭の上からヤドリギの小枝を取り上げ、目の前でくるくると回したシモンは、悪戯に笑ってみせた。
「クリスマスのルール?」
「そう。クリスマスには、ヤドリギの枝の下に立った者は、誰からキスされても拒んではいけないんだ」
 もちろん、頭の上に置くものではないけれどね、とシモンは苦笑しつつ、ヤドリギを頭上に掲げた。
「・・・シモン・・・」
 ちょっとだけ困ったような情けないような様子で眉尻を下げたユウリに、シモンは顔を近寄せた。
「・・・もう一度、頭の上に乗せてもいいかい?」
「・・・・・・・・・・・・」
 一度首を傾げる角度を深くしてから、ユウリは、それでもほんのりと頬を染め、そっと瞼を閉じた。
「ユウリ・・・メリークリスマス。今日、ここにいてくれて、ありがとう・・・」
「・・・メリークリスマス・・・」
 ユウリの声は、柔らかな温もりに消えた。
 クリスマスの夜は、穏やかに甘く更けていく・・・。



言い訳
  といいますか、何この季節外れ感、ということですね。もちろん、これは、冬コミのペーパーのために書いたからなのですが。
  今更載せたせいで、こんなことに・・・。
  この内容に関しては、詳しい由来などをとある方から伺って、なんだか申し訳ない気分になりました。
  そもそも、私は、確か昔、こんなネタあったよな、とか、こんな話があったはず、とかいう感じで、確かめもせずに使ってしまうことがあるので、もう、由来とか言い出したらただただ平身低頭するしかありません。そういうことに詳しかったり、また、調べないと気がすまない、とか、それとも、間違ってたりすると気になって仕方がない、というような方には、申し訳ないことこの上ないです。
  私の話は、そういう辺りは、本当に、あっさりスルーして読むことのできる方以外には、不快でさえあるかもしれません。
  でもまあ、気にしない方、或いは、由来とかは調べたり知ってたりはするけど、間違ってても、「ま、この人間違ってるわ。ふっ」とか鼻で笑ってくださる方、そういう方々に、適当に読んでいただければいいです・・・・。
  教えてくださった方には、ありがたいことなのですが。知ること事態は大切なことなので。自分で調べないだけで・・・。
  そんなわけで、適当に読み流してくださいませ。



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