クリスマスの夜の中
蒼い月の光が満ちる部屋の窓辺に立っていたユウリは、ふと、背後でした小さな音に振り向いた。
「そんな恰好では、風邪をひくよ」
柔らかな声は、時間を考慮してか、密やかではあったが、それでもよく通る。
「・・・・・随分若いサンタさんが来た・・・」
煙る漆黒の瞳は、どこか夢を見ているようで、シモンは、ほんの少し形のいい眉を顰めた。
「ユウリ?」
就寝間際まで、家族や親族達が姦しかったため、ゆっくり話もできなかった大切な親友との時間を僅かでも過ごせないものかと客間を覗いてみたのだが、カーテンの開いている窓から差し込む月光に照らされたユウリは、何時にも況して神秘的で、シモンの胸に漠然とした不安が兆した。
「シモン?」
ゆっくりと華奢な親友に歩み寄って、寒さからも護るかのように肩に腕を回したシモンを、ユウリは瞬いて見上げた。
「もう、夜も遅いよ・・・」
「わかっているよ。ユウリ・・・疲れている?」
腕の中、擽ったそうな笑みを浮かべている漆黒の瞳を覗き込んだ。
「そんなことないよ。パーティーはとても楽しかったし」
「双子が纏わりついて、煩かったのではないかい?」
「大丈夫。二人とも可愛いものだよ」
よほど大きな声でも出さなければ部屋の外に漏れることもないが、間近で凝視め合う距離で、囁くように笑い合った。
「・・・・・・でも・・・」
ふと考えるように首を傾げたユウリに、シモンは続きを促した。
「何?」
「・・・シモンと、余り話せなかったのが、残念だったかな」
悪戯に笑うユウリの肩を抱く腕に、ほんの少し力を込めた。
「僕もだよ」
「本当に?」
見上げる小さな顔に頷いた。
「本当に」
「・・・淋しかったと言ったら、笑うかな・・・?」
はにかむような呟きに、思わず華奢な肢体を抱き竦めた。
「まさか。僕もそう思ったから、今、この部屋に来たんだよ」
「・・・・・・・・・うん」
安堵したように息をつく最愛の親友を抱きしめたまま、蒼い月の光の中、暫し立ち尽くした。
静寂は優しく、二人を包み込む。
穏やかな時間に満足の溜息を漏らした時、腕の中の親友が身じろいだ。
「もう、寝ないと。シモンは、明日もいろいろ仕事とかあるんだよね?」
「・・・・・・なくはないけれど・・・」
離し難く、離れ難い、この温もり。
ふと、妙案を思いついた。
「今日は、ここで寝ていってもいいかい?」
「え?」
驚いたように視線を上げたユウリの漆黒の瞳の中に、拒否がないことを確認してから続けた。
「風邪を引くといけないから、ベッドの中で、もう少しだけ話して、それから寝よう。午前中は仕事はないから、明日は寝坊しても平気だよ」
「本当?」
表情に喜色が混じるのを見て、シモンは肩を抱いたまま、親友をベッドに促した。
「たまにはね」
そうして、秘密を共有する子供のように、密やかに笑い合った。
「今日は、クリスマスだからかな?」
客間の大きなベッドに潜り込んだユウリの傍らに身体を横たえて、シモンは、呟きの意味を問うた。
「何が?」
「クリスマスプレゼントみたいだな、って思って」
「プレゼント?」
ユウリの身体に毛布をかけ、自分も同じ毛布に包まりながら、楽しげな瞳を凝視めた。
「うん。シモンと、二人でこうしていることが」
鼻まで毛布に埋もれたまま、ユウリは寝支度をしていても神々しい親友を見上げた。
「それが、プレゼント? ・・・うん、まあ確かに、僕にとっても、こういう時間は、嬉しいプレゼントだね」
頷くシモンと微笑い合い、ユウリは、今この時の幸せな気分を満喫することにした。
来年の今頃、二人がどうなっているかは、誰にもわからないのだ。
ならば、今だけでも、この温もりに寄り添っていたいと思う。
「メリークリスマス、ユウリ」
シモンは、温かなほっそりとした身体を引き寄せた。
「メリークリスマス、シモン」
ユウリは、確かな温もりに身を寄せた。
大切な、掛け替えの無い親友。
蒼い月の光が満ちる、深い夜の中。
ただ、傍らの温もりだけが、互いにとっての真実だった・・・・・・。
終
言い訳
えーと、時期はずれですみません。2007年冬コミのペーパーに載せたSSです。
なんか、甘々だし・・・。この人たち・・・・・・。すみません・・・・。