居場所


「い・・・」
 寮の入り口で、ユウリは、思わず指差して呟いてしまっていた。
「居た・・・っ!」
「あぁ!?」
 小さな声だったはずなのに、地獄耳の如く聞きとがめ、青黒髪の魔術師が振り返る。
「・・・あー・・・え、と・・・」
 神出鬼没で、探すとなると不思議なほど校内で見かけることの少ないアシュレイを見つけただけで、ユウリの目的は達成できてしまっていたため、近づいてきたアシュレイの視線に、しどろもどろになった。
「探していたんじゃないのか?」
 挙動不審なユウリに、アシュレイは片眉をあげて倣岸に見下ろした。
「・・・・・・えーと、見つかるかな・・・と・・・・・・・・」
 ユウリは、眉を八の字にしてぼそぼそと説明した。自分の愚かさを今更ながらに痛感しつつ。
「はぁ?」
 わざとらしいくらい耳を傾けて見せて聞き返すアシュレイに、ユウリはため息をついて覚悟を決めた。
「アシュレイは、いつもどこからともなく現れるのに、普段、学校内で殆ど見かけないから、探したら見つかるかどうか、確かめようと思ったんです」
「・・・・・・・・・・・・お前は、馬鹿か」
 深々と呆れ返ったため息をつかれ、ユウリは肩を窄めた。
 馬鹿である。わかっている。
 けれど、暇に飽かせて思いついた時は、考えなかったのだ。
「・・・・・・すみません」
 ほっそりした身体を更に小さくして、ユウリは頭を下げた。
 アシュレイは、不意に何かを思いついたようににやりと笑った。
「・・・まあ、せっかく見つけてくれたことだし、ご褒美でもやろうか?」
「ご褒美?」
 小首を傾げたユウリの肩を引き寄せ、耳元に口唇を寄せる。
「・・・このまま俺の部屋に来ればいい」
「・・・ひゃ・・・っ・・・」
 ご褒美の内容を暗示するかのように耳朶に軽く噛みつかれ、ユウリは素っ頓狂な声をあげて飛び離れた。
「結構ですっ」
 真っ赤になって抗議するユウリに、アシュレイは肩を竦めた。
「愚かなら愚かなりに、そのまま着いてくれば新しいことを体験できるのにな。残念だ」
「アシュレイっ!」
 ユウリの抗議など柳に風と受け流すアシュレイが踵を返して寮へ入っていくのを、ユウリは、脱力して見送ることしかできなかったのだった。


言い訳
 いやはや、本当に、意味ない話ですねえ。アシュレイのご褒美ってなんでしょう。ユウリがお馬鹿さんですみません。
 本当は、胃が痛いという話にしようと思ってたんですが、胃を患いそうなキャラを見つけられなかったので。あ、グレイとかなら胃痛になるかしら。でも、そうでもない気もします。うーん。


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